マカオのサンシティグループはなぜ進出先に和歌山を選ぶのか?

 日本版IR(統合型リゾート)をめぐっては、大都市から地方まで、全国で複数の自治体が立候補する方針を示しており、各候補地で開発と運営を担う事業者(オペレーター)についても国内外の事業者が参入に名乗りを上げている。マカオから名乗りを上げた総合エンターテイメント企業のサンシティグループは「和歌山」を選んだ。

 本紙既報の通り、サンシティグループは本拠地マカオでは誰もが知る有名企業。また、最も勢いのある企業のひとつに数えられる。同社が日本の数ある候補地の中から、なぜ進出先の候補として和歌山を選んだのかが気になるところだろう。本紙記者がサンシティグループのマカオ本社を訪れ、その理由について話を聞いた。

 サンシティグループが和歌山を選んだ大きな理由として、大きく地の利と観光資源を兼ね備えた点があるようだ。和歌山IRの予定地となるのは、和歌山市南部の風光明媚な和歌浦に浮かぶ人工島「和歌山マリーナシティ」だ。関西エリアの主要な空のゲートウェイである関西国際空港から車で約45分、大阪へも約1時間でアクセスできるロケーションにあることを優位性として挙げた。和歌山県といえば、2004年に『紀伊山地の霊場と参詣道』がユネスコ世界文化遺産リストに登録されたことで注目を集めた歴史・伝統文化のほか、温泉、海と山の自然環境といった観光資源にたいへん恵まれた地域であることも同社にとって大きな魅力という。

 同社の創業者でCEOのアルビン・チャウ氏は、伝統的な情緒が色濃く残る和歌山を伝統文化と新たなエンターテイメントの集積地として、和歌山から奈良・伊勢を含めた紀伊半島を中心に、関西南部地方のけん引役として、また大阪IRと共に実現されれば、更なる関西広域シナジー構想が実現できるとしている。

 同社はプレミアムな旅のスタイルを提案することに長けた旅行会社「サントラベル」を擁しており、近隣地域との協力により和歌山を拠点にしたハイエンド旅行商品を開発することで、より広域のツーリズム業界に波及効果をもたらすことができると自信を示す。また、系列エンターテイメント会社「サンエンターテイメント」では、香港・マカオを中心に映画制作や現地で人気のアーティストを招聘してのコンサートなどの企画運営を手がけ、数々のヒットを飛ばしてきた。マカオ国際映画祭、マカオグランプリ、ミスマカオコンテストといった幅広いジャンルの大型国際イベントの冠スポンサーや協賛、共催者となり、地域文化を広く発信し、マカオの国際的なイメージの構築を支援してきた経験もあるとした。なお、事業のダイバーシティ化の一環としてサンエンターテイメントの日本法人を2020年第1四半期に設立済みで、日本という巨大市場へ正式に参入し、アジアのショーや映画ビジネスを幅広くプロモートしていくとのこと。

 同社によれば、和歌山県には数多くの特色ある観光資源があるにも関わらず、その魅力は世界的に見てもまだ認知されていないとの認識があるという。同社が計画する和歌山IRプロジェクトでは、様々なコンサートやエキジビションを積極的に誘致し、和歌山の伝統文化を題材にした作品も制作することで、和歌山の魅力を世界に向けて発信するとともに、近隣地域、そして日本全体の多元的な発展に貢献したいと意気込む。

 筆者なりに要約すれば、和歌山では長期滞在リゾート型のIR開発が可能であり、人口規模が大きく国内外のツーリストを魅了する独特の観光資源にも恵まれた広域関西圏の存在も大きいということだろう。日本政府は観光立国と地方創生の切り札としてIR誘致を推進してきた経緯があり、地域観光・産業への貢献が大いに期待されている。そう考えれば、数ある候補地の中でも和歌山のポジションは非常に興味深いものといえる。

 サンシティグループが計画する和歌山IRプロジェクトは、これまでにない「IR2.0」というコンセプトがベースになるとのこと。具体的にどのようなIRづくりを目指すのか、さらに、それが実現した場合に地域にどのような波及効果が期待されるのかについても話を聞いており、稿を改めて紹介していきたい。

サンシティグループが計画している和歌山IRのイメージ(画像提供:Suncity Group)

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