マカオを代表する伝統菓子「杏仁餅」とは?

マカオを代表する定番土産

 マカオの街角でよく見かけるのが、両手に抱えきれないほどの「○○餅家」と書かれたロゴの付いた買い物袋を持つ中華系の観光客の姿。「餅家」というのはまんまるお餅のことではなく、広東語では「ベンガー」と発音し、パンや焼菓子を販売するベーカリーショップの意味。有名な世界遺産の周辺や市街地を見渡すと、かなり多くの「餅家」が建ち並んでいるのに気づくだろう。香ばしいニオイがストリートにまで漂うのですぐわかる。

「餅家」がズラリと並ぶ聖ポール天主堂跡前の大三巴街=本紙撮影

 マカオの餅家の看板商品は、「杏仁餅(アーモンドクッキー)」と呼ばれる商品。日本ではあまり聞き覚えのない商品だが、マカオを代表する伝統菓子として中華圏の観光客の間で広く親しまれており、定番中の定番土産の座を揺るぎないものにしている。日本で例えるなら、京都の「八つ橋」のような存在だ。

大勢の観光客で賑わう聖ポール天主堂跡前の「鉅記餅家」店頭=本紙撮影

杏仁餅の歴史や由来は?

 実は、杏仁餅が定番土産の地位を獲得したのはそれほど昔の話ではないようだ。杏仁餅の起源はマカオのすぐ北にある、現在の広東省の中山市にあるとされ、今からおよそ100年ほど前にあたる20世紀の初頭に、両地の間を行き来する商人によってマカオへもたらされたものといわれている。当時、マカオは中国南部の珠江デルタ地区との海上交易で栄えていたことから、自家製アーモンドクッキーをリヤカーに乗せ、広東や香港との間を往来する船が発着する港の近くで売り歩く人が次々に現れたという。以降、マカオの観光業の発展に伴い、商人から一般の観光客にも評判が伝わり、マカオを代表する伝統菓子として商業化が進んだ。

博物館(後述)に展示されている「鉅記餅家」創業当時のリヤカー=本紙撮影

 リヤカーからスタートしてマカオ最大手にまで成長した「鉅記餅家(コイケイベーカリー)」創業者の立身出世ストーリーが香港民放局の人気連続ドラマ枠で2013年に放送されたことで、香港の人たちの間でもアーモンドクッキーがあらためて注目を集めている。このほか、杏仁餅発祥の地・中山にゆかりのある「咀香園餅家(チョイヒョンユンベーカリー)」も元祖として知られ、鉅記餅家と並ぶ二大ブランドとして高い人気を誇る。

レッドマーケット(紅街市)の後方にある「晶記餅家」は昔ながらのレトロ感あふれるディスプレイで人気=本紙撮影

杏仁餅ってどんな味?

 杏仁餅は英語でアーモンドクッキーと呼ばれるが、実は焼き菓子ではなく、落雁に近い干菓子の一種だ。主な原料は緑豆(リョクトウ)、アーモンドの近種にあたるアンズの種の杏仁(キョウニン)、白砂糖、卵黄。これらの原料を練って型にはめ、その後、炭火でゆっくり乾燥させて出来上がりとなる。

粉を練って型にはめる生産工程。マカオ半島北部にある「咀香園餅家」の工場にて=本紙撮影

 お味の方はというと、まず、杏仁の香ばしさが味覚をくすぐる。食感はかなりパサパサしており、ほんのりした甘さが口の中に広がる。中国茶やコーヒーによく合う感じだ。最もオーソドックスな杏仁餅は、直径5cm、厚さ1cmほどの円形をしており、けっこうずっしり感じる。バリエーションとして、黒ゴマやナッツ、乾燥肉などを練り込んだもの、ひとくちサイズのミニサイズなども販売されている。土産店の店頭では積極的に試食をすすめてくれるので、食べ比べをしてみてもいいだろう。

 商品ラインナップは豊富で、価格は日本円で数百円程度の小さなパッケージから用意されていることが多く、友人や職場へのバラまき系のお土産としても最適だ。

内港エリアの路地、夜呣街にある老舗、「最香餅家」では店頭で炭火乾燥を行っており、香ばしいニオイにつつまれる=本紙撮影

杏仁餅がテーマのミュージアムも

 2011年、杏仁餅を中心としたマカオの伝統菓子をテーマにしたミュージアム「手信博物館(土産博物館)」が世界遺産媽閣廟近くにオープンした。昔ながらの杏仁餅を売るリヤカー、レトロなパッケージ、木製の型などが展示されている。「鉅記餅家」の大型店に併設されているため、試食や買い物をするにも便利だ。

ミュージアムで展示されている木製の型=本紙撮影

*記事の内容は取材当時(2015年2月)のものです。

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