マカオのサンシティグループは和歌山でどのようなIRを計画しているのか?
- 2021/3/3 17:05
- 澳日関係
日本版IR(統合型リゾート)をめぐっては、大都市から地方まで、全国で複数の自治体が立候補する方針を示しており、各候補地で開発と運営を担う事業者(オペレーター)については国内外の事業者が参入に名乗りを上げている。マカオからも、総合エンターテイメント企業のサンシティグループが和歌山への進出を目指している。
これまで、本紙ではサンシティグループがどのような企業なのか、そして数ある候補地の中からなぜ和歌山を選んだのかについてレポートしてきた。では、同社が和歌山で具体的にどのようなIR施設の開発を計画しているのだろうか。本紙記者がサンシティグループのマカオ本社で取材した内容を元にご紹介していきたい。
筆者の質問に対し、前提として他の事業者のように「何を日本へ持ち込むか」という発想ではなく、「日本から何を世界に示せるか」にフォーカスしているとした。同社では、これを「IR2.0」と呼び、端的に和歌山IRのコンセプトを表現するキーワードにしているとのこと。
同社が掲げる「IR2.0」とは耳慣れない言葉だが、具体的にどのようなものを指すのか。IRといえば、米国ラスベガスをイメージする方も多いはずだ。アジアにおいても、マカオやシンガポールではラスベガスのスタイルに倣った「ラスベガス型」と呼ばれるIRが主流となっている。「IR2.0」は、そういったものとは一線を画した世界でも類をみないもの全く新しいIRモデルであり、「オペレーターが持ち込みたいものではなく、より地域の文化に根ざしたものであるべき」という考え方がベースにあるという。同社では、和歌山のアドバンテージとして、唯一無二の美しい自然環境、文化、歴史・伝統といった観光資源の存在を挙げた。目下、サンシティグループは事業拠点を世界中に持ち、ベトナム・ホイアンと極東ロシア・ウラジオストクでのIR施設運営を含む事業のダイバーシティ化を実現していることから、IR開発・運営に関する造詣も深く、自社の人材、ネットワーク、リゾートマネジメント経験などの強みを活かすことで、和歌山の多元的な魅力を世界へ示すことができると自信を示している。
世界のIR事情について補足すると、ラスベガス、マカオ、シンガポールとも同一地域内に複数のIRが存在するのが特徴だ。一方、日本のIR誘致計画は、1地域1事業体であり、同一地域に複数事業者のIR施設が並立するわけではなく、IRを開発・運営をする上で前提条件がまるで違う。よって、「IR2.0」のような地域を代表し、世界に向けてアピールできるIRが必要というわけだ。
次に、サンシティグループが和歌山で計画するIR施設のハード面での特徴についてご紹介したい。すでに外観イメージが公表されているが、これまでに前例のないIR2.0プロジェクトを実現するため、同社は世界で最も多くのIR施設をデザインした実績を持つエキスパート、AEDASを招聘し、エクスクルーシブなリゾートをテーラーメイドすると意気込む。外観のメインテーマとして、和歌山城、和歌にも詠まれる六義(むくさ)と、紀州の和歌浦を中心とした美しい歌枕の風景を再現した「六義園」、大阪と江戸を結ぶ海上交通の要衝としての港をはじめとするレガシーにインスパイアされたイメージを盛り込むという。
リゾートを構成する主な施設は、客室とヴィラから成るホテル、レストラン、スカイラウンジ、温泉・スパ、エキジビション会場、家族向け、屋内スポーツ施設。さらに、県内各地の観光地との間を結ぶツーリズムも用意するとのこと。
また、同社では、各種ハード面での設備を構築するだけでなく、ソフト面の充実にも力を注ぎ、和歌山をモダンエンターテイメントと伝統文化の複合体へと変えていきたいとしている。同社はマカオにおいて映画製作、大規模コンテンツ、さまざまなアイコニックなアートイベントを手がけており、これまで培ってきたエンターテインメント・カルチャープロモーション分野の豊富な経験を和歌山で存分に活かすつもりとのこと。和歌山IR施設内にさまざまなエンターテイメントイベント、パフォーマンスエキジビションを誘致することを通じて地域の文化的ムードを再構築、活性化、深化させ、和歌山の魅力を世界へ向けて発信したいと抱負を語った。
観光客目線で見れば、たいへんワクワクさせられる計画だが、地域に暮らす人々の生活や地域社会、さらには関西広域、全国レベルでどのような波及効果が期待されるのかも気になるところだ。地域貢献を含むCSR(企業の社会的責任)の取り組みや地域にもたらされると想定されるポジティブインパクトについてのビジョンも聞くことができており、稿を改めて紹介したい。