不動産関連の東通グループがマカオに支店開設…両地のビジネス交流促進に意欲

コロナ禍でも投資を拡大した成功事例やその秘訣は?

 2019年に日本での事業を開始してから現在に至るまで、決して平坦な道のりではありませんでした。コロナ禍において、日本にいるスタッフと緊密に連絡を取り合い、定常的にミーティングを行うことで、企業文化の醸成や組織化を図ってきました。ゼロからのスタートといっても過言ではなく、日本でゼロから作り上げたチームだからこそ、唯一無二の強みになりました。コロナ禍という状況に関わらず、私たちは特に情報処理スピードにこだわりを持っており、販売中及び今後販売予定の物件情報をスピーディに登録し、データベース内の数字を分析して最短時間で判断を行う独自の物件情報登録システム「KABURAN」を開発し、業界でたいへん大きな反響を呼んでいます。また、マカオで培った40年の経験と資本力を活かし、市場に売物件が出た際にはいち早く情報を入手した上、競合に対する競争力を生み出すことで、多くの成功をもたらしてきました。

コロナ禍における事業リスクとチャンスについての見解は?

 新型コロナが世界へ影響を及ぼしてからすでに3年が経過していますが、2020年初頭と2021年にかけて、間違いなく多くのチャンスがありました。私にとって印象的だったことが2つ挙げますと、まず第一に原油価格が高値から横ばいとなり、そして今また高騰していること、そして第二にホテル客室価格(特に欧米主要都市及びシンガポール)が高値から安値へ落ち込んだ後、現在は更なる高値となったことです。ゆえに、チャンスを掴むというのは、危機をチャンスに変えることだと思っています。ただし、2022年になって、社会はポストコロナ時代に入り、ウィズコロナという考え方に転換しています。今、多くの企業が我慢しなくてはならない時代、言い換えるとチャンスを掴むことよりも危機を察知して事前対応することがより重要になってきたと認識しています。

最近急速な円安が進む状況の中、日本への投資意欲に変化は?

 コロナ禍で円安、インフレが進み、日銀が利上げの可能性を示唆する中、我々としても自分達のペースで組織強化を図り、安定したリターンが見込めるプロジェクトを見極めて投資していく必要があります。市場の状況が良くても悪くても、企業としての組織力と人材が優れていれば、日本に対する投資意欲に大きな変化はないでしょう。また、我々は市場が急上昇を始めたタイミングで大量売却するのではなく、段階的に売却し、優良物件については長期保有を目指す考えで、極端に事を進めません。したがって、今後も環境に関わらず、投資と開発のペースを一定に保ち、市場の変化に目を配りながら、個々の物件に対して慎重に分析・判断をしていく必要があります。我々の事例を挙げると、コロナ禍でマカオと日本の市場がいずれもたいへん悲観的な状況となった際、日本では若者の間で就職難となりましたが、我々は多くの若い人材を採用でき、日本法人のスタッフは若手が中心となっています。このほか、コロナ禍で見通しが悪いと判断して物件を手放す人も多かったため、我々は低価格で容易に物件を取得することができました。

日本法人としてマカオに支店を開設した理由は?

 マカオ経済のファンダメンタルズは変わりませんが、新たな情勢に対する対応が必要です。目下、中国の台頭が進んでおり、時機といえます。マカオはメガシティ(香港、深圳、広州)に近いという地の利があり、また観光資源が豊富で、経済・貿易についても活発です。人材面では親会社が持つ現地に関する知見とネットワークを活用することができます。そこで、今年頭にマカオのコアエリアである高士徳(コシュタ)地区でビル一棟を購入し、マカオと日本で並行して事業展開していくことにしました。現在マカオでは就業難の状況にありますが、我々は今後マカオで3〜5店舗を相次ぎオープン予定で、多くのマカオ人を採用することで企業としての持続的発展の推進力とし、マカオと日本の両地における事業を連動させ、一層のシナジー効果を生み出していきたいと考えています。

日本と比較してマカオのビジネス環境やメリットは?

 マカオは自由で開かれたサービス経済体であり、面積と人口規模は小さいものの、インフラは整っており、税制についてもシンプルで低率です。具体的には、法人税と個人所得税は最高で12%で、近隣地域内の最低水準となっています。また、マカオは自由港、単独関税区の地位、CEPA(中国本土とマカオの経済連携協定)といった独特のビジネス上のメリットを多数有し、また自由な資本移動と為替規制がないことから、世界貿易機関(WTO)から長年にわたって世界で最も開かれた貿易・投資システムを持つ経済体のひとつとして評価されています。区域性ビジネス・貿易サービスフォームとしてのマカオは、中国に支えられ、世界に面しているという利点があり、中国が推進する一帯一路、第13次5ヵ年計画、自由貿易区、インターネット+(プラス)、越境ECといった戦略的発展機会を活かし、独特のポジションを確立しています。マカオは自由港政策と自由市場経済制度を採用しており、投資や事業運営に関する手続きは簡便で、外国人と現地の投資家が事業を立ち上げる手順は全く同じですし、マカオ政府貿易投資促進局(IPIM)が各種行政手続きをサポートするワンストップサービスを投資家に対して提供しています。ですから、我々としても中国本土や海外企業のマカオ進出を歓迎し、質の高い、効率的なビジネスプラットフォームサービスを提供することで、投資家の事業開拓サポートを図り、ウィン・ウィンの関係性を築いてまいりたい考えです。同時に、日本独自の企業文化をマカオに持ち込みたいとも思っています。

今後の展望やプランは?

 今後3年間については、日本とマカオでの事業拡大に注力し、着実な収益増を図りたい考えです。また、中国の重点経済開発エリアである「大湾区(広東省・香港・マカオグレーターベイエリア)」と横琴の「深合区(広東省とマカオの合同開発区)」についても、マカオは絶対的な優位性を持っていると認識しています。現時点ではマカオにしっかり根付くことが先ですが、今後機会があれば大湾区、深合区への投資機会も模索するつもりです。

マカオ企業やマカオへの投資家に対してアドバイスは?

 困難を恐れず、未来を諦めなければ、勝利への道が開けると思います。

これまでにIPIMのサービスを利用したり、利用を検討したことは?

 はい、もちろんあります。IPIMのワンストップ会社設立サービスはとても便利です。また、IPIMが大湾区9都市での商事登記コンビニエンスサービスを提供している事もネットで知り、非常に便利だと感じました。

MIF(マカオ国際貿易投資展)への参加は?

 はい、参加を予定しています。MIFは毎年開催されており(註:27回目の開催となる今年は10月20〜22日)、世界中の投資家やマカオの現地企業が参加しますし、商機拡大と相互交流促進につながるプラットフォームのひとつして機能していますから、我々としても出展者や来場者に向けて日本の不動産市場への投資について紹介する好機と思っています。

IPIMに対する見方、またIPIMによるマカオ企業への支援の位置付けについての考えは?

 IPIMはマカオ企業が事業運営を進める中で直面する課題の解決につながる支援など、便利なサービスを多数提供しているため、大いに役立っているといえるでしょう。また、マカオの優位性をアピールする各種イベントの開催、より多くの潜在顧客へのアプローチを可能にする交流プラットフォームを提供するなどを通じ、対外経済協力の推進にもとり生んでいます。日本人のなあには、マカオの存在を知っており、良い印象を持っているという人も多いのではないかと思います。

東通グループが展開するホテルのひとつ「LOFホテル新橋」(写真:Totsu Group)

現在マカオ経済がコロナの影響で大打撃を受ける中でのマカオにおける今後の取り組みは?

 まず、第一段階としては、マカオで最初に開設した支店をベースに不動産仲介業に従事し、自力で少しでも成功実績を積み上げていきたいと考えています。第二段階として、マカオでの中長期的な事業店内を視野に入れ、将来の本社となる物件(オフィスビル)をコアエリア内に購入しました。第三段階では、持続可能な発展を可能とする企業価値の向上を模索します。そして、第四段階において持続的な黒字化を達成した上、支店の増や不動産投資、また不動産開発などの方向性を検討するなど、マカオに重点投資していく考えです。

マカオ市場へ貢献するための具体的な計画は?

 4つあります。第一に、マカオ支店の開設は、日本事業の急速な発展を支えるための基盤強化であり、不動産、会計・財務、翻訳などに従事するマカオローカルの雇用を継続する必要なあります。第二に、マカオに日本企業が進出することで、日本とマカオの間の双方における投資拡大が期待でき、またマカオの投資家向けに日本の不動産情報を提供し、より容易にアクセスいただけるようになります。第三として、日本企業の仲介サービスをマカオに導入することで、新たなパワーを注入し、現地のお客様にもこれまでにない体験をもたらしたいと考えています。第四は、弊社の日本の本社は東京のコアエリアにあり、ホテル、サービスアパートメント、シェアオフィスを運営していますので、マカオのお客さまの日頃のご愛顧に感謝し、特別割引や無料サービスなどを用意することも考えています。

上の回答の「第四」の部分についての詳細は?

 質問ありがとうございます。私が特に強調したかったのは、弊社が日本で運営するホテル及びサービスアパートメント、シェアオフィスはマカオのお客さまの短、中、長期の滞在、ビジネスニーズに対応することができるという点です。我々の場合、不動産市場での経験は比較的長いのですが、日本のローカルマーケットに関する知見が少なく、つまづきを繰り返しながら、最終的には適切なパートナーや投資家と出会い、現在の規模までビジネスを発展させることができました。我々のホテルを例に挙げますと、創業者はマカオの5つ星ホテルの総経理を務めた人物で、ホテル経営手腕に長け、日本でホテルマネジメント事業を展開するにあたっては、チェーン方式のマネジメントへ転じ、現在は総合プロパティマネジメントへ形を変えています。また、あるマカオの有名なデザイナーが日本の大物建築家である隈研吾氏と一緒にマカオの豪商のブランドデザインを手掛けるため来日した例もあります。申し上げたかったのは、マカオには人材がおり、他の国でもしっかりと成果を上げることができるという事実です。もちろん、初期段階でつまづくこともありますが、我々はその困難を最小限に抑えるための協力体制を整えています。適切な住居と事業場所があれば、良いスタートを切ることができますし、事前にマカオのIPIMやマカオ日本商会などさまざまなプラットフォームを通じて相手先を見つけてから海外での事業をスタート、拡大できる仕組みがあります。マカオの商工会議所では、現地のホテルに働きかけ、地元のカルチャー・クリエイティブ関連商品の自販機をロビーに設置するといった取り組みを行っています。我々のホテルやシェアオフィスでも、定期的に写真展やビジネス座談会を開催しており、マカオのクリエイターによる東京での個展や講演会の開催も検討ちゅです。我々のホテルや各種物件では、マカオに関する雑誌をラックに置き、マカオのプロモーションのみならず、雑誌の部数増や閲読率向上に協力することも大歓迎です。

香港にはすでに多くの日本ブランド(特に吉野家、スシロー、一蘭など飲食関連)が進出しているがマカオには少ない。今後マカオで日本ブランドのフランチャイズ経営に乗り出す考えは?

 日本に多くの素晴らしいブランドがあることはよく知っています。マカオと日本の架け橋になれる機会があれば、我々としても双方に提案し、貢献したいと考えます。マカオに日本飲食ブランドの進出例が少ないということは、非常に興味深い問題です。これまでに、飲食業ではないですが、小売業のDON DON DONKI、軽工業のダイキン、自動車のトヨタ、かなり前に至っては小売業のヤオハンといった日本ブランドがマカオで大成功を収めたのを見てきました。先人が道を切り開き、成功を収めたわけですから、現在も課題が多いわけではなく、比較的大きな潜在力があるように感じます。日本とマカオの企業家はこの問題に対して真剣に取り組む価値があるといえるでしょう。


 インタビュー取材は以上となる。東通グループのマカオ支店を開設をきっかけに、今後、日本とマカオのビジネス交流がより活発化することを期待したい。

東通グループの本社の入る東京・港区の東通新橋ビル(写真:Totsu Group)
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