世界カジノ三都物語〜ラスベガス・マカオ・シンガポール〜

マカオ

 マカオの面積は東京の山手線の内側のほぼ半分に相当する約30平方キロ、人口は約65万人という小さな都市だ。一体、どうのようにして世界最大のカジノ都市になったのだろうか。

 マカオはもともと小さな漁村だったが、ポルトガルが主導した大航海時代以来、ヨーロッパとアジアを結ぶ海上交通の要衝となり、国際貿易都市として発展した。こうした中、港湾労働者たちの間でギャンブルが流行するようになり、徐々にこれが組織化され、すでに16世紀頃には市内にテーブルゲームを提供するカジノ小屋が複数存在したとされる。

 その後、ポルトガルの国力の衰退、1842年に香港がイギリスの植民地になったことなどをきっかけにマカオの国際貿易港としての地位が低下したことを受け、1847年に正式にカジノが法制化されるに至った。

 20世紀半ば以降、カジノ経営ライセンスは泰興公司(1937〜1961年)とSTDM(1962〜2001年)による一社独占体制が続く。STDMは1970年に旗艦施設として「ホテルリスボア」をオープン。カジノだけでなく、マカオのインフラ整備にも力を注ぎ、都市の近代化に貢献し、現在に至る観光都市マカオの礎を築いたことでも知られる存在。STDMを率いるスタンレー・ホー氏は莫大な富を得て、マカオのカジノ王と呼ばれるようになった。ホテルリスボアは現在も営業しており、古き良きマカオの色香を感じさせる派手なネオンが煌く建物は、マカオを訪れる観光客にとって人気の記念撮影スポットになっている。

ホテルリスボアのネオン=本紙撮影

 1999年12月、マカオはポルトガルから中国に返還され、中国のマカオ特別行政区として再出発する。間もなく、政府が従来のギャンブル一辺倒からレジャー・エンターテイメントの街に大きくイメージを変えるべく、カジノ経営ライセンスの対外開放を打ち出し、2002年に実現することに。STDMが新たに組織したSJMのほか、ラスベガスでIRの開発、運営ノウハウを持つ3つのグループ(ウィンリゾーツ、ラスベガスサンズ、MGMリゾーツ)など計6陣営がライセンスを獲得し、新興埋立地のコタイ地区を中心に大型IR施設の建設ラッシュがスタートした。

 2003年に中国本土からマカオへの個人旅行が解禁、2005年にはマカオ歴史市街地区がユネスコ世界文化遺産リストに登録されるなどの追い風もあり、返還の年に743万人だった訪マカオ旅客数(インバウンド)は右肩上がりで成長を続け、2014年に3000万人の大台を突破。カジノIR導入によるインバウンド誘致効果は抜群だったといえる。

 なお、訪マカオ旅客数の増を上回るペースでカジノ売上も急拡大が続いたが、2014年、2015年と2年連続で前年割れとなった。中国本土富裕層を中心としたハイローラーと呼ばれるVIPカジノ客の流出によるものとされ、これをきっかけに、マカオ政府は過度なVIPカジノ売上への依存体質からの脱却を図る方針を打ち出す。以降、官民双方で積極的にレジャー・エンターテイメント要素の拡充を図っている状況。昨今、マカオのカジノ売上におけるVIP部門とマスゲーミング(いわゆる平場)部門の比率はおよそ半々にまで平準化が進んでいる。

マカオの新興埋立地、コタイ地区の大型IR群=本紙撮影

 マカオでは、中国返還後も一国二制度が適用されており、50年間は従来の社会制度が維持されます。中国へのいわゆる「上納金」もなく、カジノ売上の約40%という莫大なカジノ税収は、すべてマカオ政府の懐に入る。参考までに、マカオ政府の歳入のおよそ8割をカジノ税が占める。カジノ税収という潤沢な財源を持っているため、教育・医療の無償化といった福祉面が充実しており、インフレ対策と富の再分配名目で今年まで9年連続で日本円10万円以上の現金配布も実施している。個人年金口座への資金注入、医療クーポン券の配布、生涯学習や家庭用電気代に対する補助など、例を挙げればきりがないほど。これらはマカオ居民向けの施策だが、インバウンド旅客にとってのメリットとして、消費税がかからないことが挙げられる。法定通貨のマカオパタカ、カジノで主に使われる香港ドルは、いずれも米ドルと為替連動しているため、日本から現地を訪れる場合、昨今のような円高なら割安感がある。ほかにも、アルコール度数30%以下のお酒の輸入に関税がかからず、酒税もないことから、ビールやワインも日本で比べて格安。値段の割に品質が良いとされるポルトガル産ワインの品揃えが特に豊富なのも、アジアではマカオならではだ。マカオの物価は年々上昇しているが、それでも今回紹介する3都市の中では最もマシといえるだろう。

 マカオといえば、中国人ギャンブラーがカジノ目当てに殺到しているという印象が強いかもしれない。実際には、カジノ施設のIR化が進んでおり、レジャー・エンターテイメントも充実度を増している中、家族連れのツーリストも増えてきている。また、東洋と西洋の交差点として発展した土地柄、旧市街には30か所の世界遺産をはじめとした南欧風の美しい街並みが残り、アフリカンチキンやカレークラブに代表されるマカオ料理と呼ばれる独特の食文化も存在する。エキゾチックな雰囲気とアジアのラスベガスを両方楽しめるデスティネーションという点がマカオの強みだ。また、治安は日本と比較しても良い方で、大きなアドバンテージといえる。

 今回紹介する3都市の中で、日本から距離的に最も近いのがマカオだ。時差は1時間。東京、大阪、福岡とマカオ国際空港の間にマカオ航空の直行便が就航しており、所要時間はおよそ3〜4時間程度。LCC(格安航空会社)を含めてよりフライトの選択肢が多い香港国際空港との間に直行フェリーも運行されている。移動に要する時間が短いため、三連休といった短い休みでも気軽に訪問できるのが魅力だ。旅行や出張で香港になら行く機会があるという方も多いだろう。香港からマカオは高速フェリーを利用して約1時間でアクセスでき、日帰り訪問も可能だ。現在、香港とマカオの間を結ぶ港珠澳大橋の建設が進められており、数年内に開通予定。これにより、香港国際空港とマカオの間の移動時間が40分程度へと大幅に短縮される見通し。

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